

退蔵院の目玉で国宝に指定されている『瓢鮎図』。この絵は山水画の始祖といわれている如拙*1)が、足利義持の命により心血注いで描き、現存する彼の作品 の中で最高傑作といわれています。
「ただでさえ捕まえにくいなまずを、こともあろうに瓢箪で捕まえようとする。」この矛盾をどう解決するか、将軍義持は当時の京都五山の禅僧31人に参詩を 書かせました。高僧連が頭をひねって回答を連ねた様子は正に壮観です。そのいくつかを紹介しましょう。
『瓢箪で鮎を押さえつけるとは、なかなかうまいやり方だ。もっとうまくやろうなら、瓢箪に油をぬっておくがよい』(周宗)
『瓢箪でおさえた鮎でもって、吸い物を作ろう。ご飯がなけりゃ、砂でもすくって炊こうではないか。』(梵芳)
この瓢鮎図は、退蔵院に伝えられる宝物のうちで一番重要な物で、室町時代の漢画の代表的名品として知られています。さて、本図は題詞にも記されているよう に、円滑の瓢箪をもって無鱗多涎の鮎魚を押さえ捕らえうるかどうかという禅特有の意味深長な公案を画因とする禅機画です。ここに「鮎」とあるのは「なま ず」のことで、普通「なまず」は「鯰」という字を書きますが、この鯰は国字(日本の文字)のため、中国由来の「鮎」と表記されています。
このような画因による本図では、俗塵を絶した閑寂な野辺の一角、芦の生える川の畔に、蓬髪有髭の一田夫が両手で一瓢を押さえて立ち、水中に泳ぐ魚を捕らえ んとする光景が画面中央に見られます。なおその岸辺には数株の竹があり、背景遠くには山陰を浮かび上がらせていますが、全体としての図様は極めて簡素で す。しかし描写は以外に精密で、その筆致は細かいけれど、つよい弾力をもち宋元画の技法をよく消化しています。そしてこの作家独特の作風を生み出し、なか なか格調の高い作品をつくっています。その作風上の特色は、とくに酒税と瓢逸を示す超俗的な人物の面貌容姿の表現やその人物をつつむ近景の動的な描写など がうかがわれますが、美術史的に興味を引く一つの重要な点は、それが禅機画*2)でありながら、全体としての構図が山水画的な特色を備え、室町時代の漢画 である山水画の早き例とも見られることです。このような本図の筆者如拙は、詳しい経歴は明らかではありませんが、京都相国寺に住した禅僧で、室町初等に画 技をもって名をなした人物だと言われています。本図は、彼の遺作としてもっとも信ずべき確証をもちその歴史的価値は極めて大きいものでしょう。
*1)如拙
如拙は室町時代の禅僧でしたが、宋元画を学び日本の水墨画を開拓した先駆者で雪舟も如拙をわが師と呼んで私淑したと言われています。瓢鮎図は如拙が足利義 持の命を受けて描いた禅画でもあります。
*2)禅機画
禅の悟りの契機を描いた絵